明治時代より金融の中心地として栄えてきた日本橋兜町・茅場町
種まきのステージを経て、今
この街が動き出す

Chapter 1

先行取組みの成果

日本橋兜町・茅場町は明治以来、「投資の街」「証券の街」としての地歴を有しています。さらに当社が推進している「日本橋兜町・茅場町再活性化プロジェクト」は、証券・金融に係る機能(以下、「金融貢献機能」)を整備することによって、東京都が主導している「国際金融都市・東京」構想において、大手町地区、日本橋地区と分担・連携することで、この構想の一翼を担うプロジェクトとなることが期待されています。

「ビルが建ちました、さぁ皆さん来てください」と言っても、この街にいきなり人が集まってくるものではありません。ビルが竣工するときには既に「日本橋兜町・茅場町」のブランティングを浸透させておく必要があります。

金融貢献機能を整備するだけでなく、街全体を活性化させ、盛り上げていくことが重要です。この街で展開すべき「金融貢献機能」の具体化に向けた先行取り組みと街の賑わい創出の両軸で進めてきました。

2016年に東京証券会館の1階にカフェとビジネスサロンを融合させたCAFE SALVADOR BUSINESS SALONがオープンしました。この施設は新たな街づくりの主役になっていただきたい方々に対して日本橋兜町・茅場町に足を運んでもらうにはどうしたら良いか議論を重ねた結果、生まれたアイデアを形にしたものです。

実現性の検証という点で考えると、カフェのオープンから4年経ちますが、試行錯誤しながらカフェでの活動も変わってきましたね。

そうですね。ビジネスサロンというと難しく聞こえますが、お茶を飲みながら打ち合わせをしたり、軽食を取りながら懇親会ができるような気軽なスペースです。金融関係やFintech関係の方々だけでなく、コミュニティ形成の場としても職業、年齢等問わず色んな方々に活用してもらえるよう、例えば朝の出勤前の時間を利用した英会話や朝活など、一般の方にも参加しやすいイベントを開催するなどカフェ自体を盛り上げるための様々な仕掛けを行っています。

定期的に開催しているイベントも増えてきましたね。同じ場所で開催することで、関係者や興味のある層からの口コミ効果や注目度が高まってくれば、それが集客にも繋がっていきます。

エリア内の新金融拠点「FinGATE」はFintech企業、資産運用会社、スタートアップ向け施設のブランド名称です。2017年には「FinGATE KAYABA」、2018年には「FinGATE KABUTO」、「FinGATE BASE」を開設しています。このFinGATEシリーズを中心にFintech企業やスタートアップ企業を集積させることによって、「コト始めの街」という日本橋兜町・茅場町のDNAを継承していきたいですね。

これから連鎖的に開発していく新築ビルにおいても、金融貢献施設としての必要な条件を考えることはもちろん大切ですが、使ってもらえなければ意味がないし収益も生まれません。具体的にどういう使われ方をするのかをイメージしながら今後も様々な可能性を考えて検討していくことが必要だと思っています。


Chapter 2

街づくりの根本は面白いことがしたい、という発想

賑わいのある街づくりを行っていくうえで気を付けるべきことは、「ビジネス的な側面に寄り過ぎないこと」だと思っています。どんな街で働きたいか?と考えれば当たり前ですが、賑わいのある活気のある街を創っていく必要があり、それはビジネス的機能だけでは成り立たないものだと思うのです。

今後ますます「コミュニティ」が注目されるはずです。コミュニティの形も規模も様々ですから、私自身も外部の色々なイベントに参加するなどしてコミュニティの仕組み作りを模索しています。この街で「コミュニティ活動」を行ってもらうことで、この街を「自分の街」として認識する人や企業が増えていくと思っています。

「FinGATE KAYABA」の1階にはイベントスペースを整備しており、資産運用やFintech関連のセミナー、イベント等が継続的に開催されています。また、上階にFintech企業向けのオフィスを整備することで、一時的な利用者の集いではなく、安定したコミュニティの形成に繋がっています。FinGATEシリーズ内には入居者専用の共用会議室やラウンジ、リラックススペースも備えていますので、入居企業同士のコミュニティ形成も積極的にサポートしていきたいと考えています。

固いと思われがちな金融貢献機能の整備という取組みの中でも、関係者との繋がりを構築することで、様々な相談や提案をいただくことも増えてきました。ある大手金融機関からはFintechスタートアップを対象とした支援プログラムの整備拠点についての相談をいただき、兜町に開設していただきました。

これらの活動を通じて、話題性やFintech支援に対する当社の姿勢が関係プレーヤーに発信されることも期待されますね。

賑わいのある活気のある街を創っていくには、コミュニティの形成に加えて既存資産の有効活用も必要だと考えています。各種設備面や法的な側面では難しい点もありますが、街の活力の継続性という観点で重要視しています。既存資産を活用することで、人が溜まれる場であったり、新しくこの街に来る人達が増えていくような仕掛けを続けていきたいですね。

茅場町一丁目平和ビルで数ヶ月間に渡るアートイベントを開催したときは、多くの方々にお越しいただきました。金融に関わらず様々なイベントを誘致することで、日本橋兜町・茅場町に足を運んでもらい、街を歩いてもらいたいと思っています。日本橋兜町・茅場町の歴史や文化に興味をもってもらえたら嬉しいですし、飲食店等を利用してもらうことで地域の更なる活性化にも繋がると期待しています。

その他にも兜町で初めての試みとなるJAZZイベントを東証ビルのホールで開催する等、街の賑わい創出への取り組みを積極化しています。街の賑わい創出のために街案内パンフレット「かぶとさんぽ」の制作や無料巡回バス「メトロリンク日本橋」に協賛して日本橋兜町・茅場町を含む「メトロリンク日本橋eライン」の運行など様々な活動を行っています。エリアマネジメント活動の一環として、日本橋兜町・茅場町を中心とした地域の認知度およびブランド力の向上のため、「一般社団法人日本橋兜らいぶ推進協議会」を立ち上げ、地域イベントを集約・発信するポータルサイト「兜LIVE!」を運営して自主企画イベントを開催しています。

日本橋兜町・茅場町で働いている方、住んでいる方にも素敵な街だと感じてもらえるよう、エリアマネジメント活動にも注力しています。街や日本橋地域も含めた広域なエリアを対象として、この地域で精力的に地域活動を行っている企業や団体とも協力して街を盛り上げていきたいですね。

これらのイベントは私たちだけのアイデアではありません。面白いことをやりたい、という発想で周囲の人たちと協同できたからこそ実現したものです。

最近「この街で見なかった人を見るようになった」と言われることがありますが、それは「今まで見なかった場所で見るようになった」だけのことだと思っています。この街には人が集まるポテンシャルがありますから、いかに持続性のある仕組みを作るかが重要になってくるでしょう。


Chapter 3

兜町が動き出す

永代通りと平成通りが交差する街区が、「兜町・茅場町再活性化プロジェクト」の第1弾プロジェクトとなる「KABUTO ONE」です。国家戦略特区に認定されているプロジェクトで、大部分はオフィスとなりますが、金融関連機能として投資家と企業の交流を発生・促進するためのホール・カンファレンスやライブラリーラウンジなどを整備する他、低層部には地域の賑わい強化を図るために店舗を計画するなど、地域全体の活性化につながるプロジェクトと考えています。
地上15階、高さ90mの建物を計画しています。現在建築工事を進めていて、2021年夏ごろの開業を目指しています。ようやく動き出したことが目に見える形になってきました。現在はちょうど、茅場町駅から地上に出たところに「KABUTO ONE」の看板文字が出ているのか見て取れると思います。

開業準備に向けた業務は多々ありますが、早々に着手したのはリーシング戦略の立案および実行、パンフレット制作などです。ターゲットを定め、直接営業を行ったことで、以前から協議を行っていた企業やこの街がイメージアップする上で強力なビジネスパートナーかつPR効果が期待できる企業等の誘致に繋がりました。また、リーシングはビルディング事業部がメインですが、開発推進部と密に連携しながら推進したため、戦略通りの誘致ができましたね。「竣工時満室」の目標も達成できそうです。

リーシングが一旦終わりましたので、現在は当社、設計会社、テナントが連携したKABUTO ONEのプロジェクトチームで、引渡しに向けた工事やレイアウト等の入居調整を進めています。その他運営ルールを定めたり、ビル管理会社と連携していくなど、建物だけでなく、中身の方も開業に向けてまさに動き出しているところですね。

「始動」という意味では、今年の2月には「K5(ケーファイブ)」がようやくオープンできましたね。このプロジェクトは今から3年程前に若手を中心としたアイデアの集約から始まり、伊勢谷さんと2人で提案や実行をしてきたものです。

「K5」の建物は道路側(東側)がパネルで覆われていたのですが、駐車場に面した反対側(西側)はオリジナルデザインが残っていたため、道路側も同じデザインが残っているのではないかと推測していました。パネルを外し、この建物の当時の姿をもう一度復元して魅力的に活用することで、ビルの不動産的価値向上だけでなく地域の価値の向上に繋がることになる、という結論を先に設定しましたね。そしてその場合、有効に使える用途はどんなものか、事例の研究や提案戦略などを実行していきました。

周辺には東京証券取引所ビルをはじめ、山二證券、フィリップ証券、日証館など重厚感と趣のある建物が多かったので、利用用途は自然とホテルや飲食店舗がいいだろうというストーリーでしたね。会社からではなく、若手発信で一度全体の賑わいのグランドデザインのようなものも作りこみましたね。

今後の取り壊しの可能性や耐震補強工事を行えば事務所用途としてもそれなりの収益を生む可能性が十分にあったので、「賑わい用途として利用する」という我々の提案を理解してもらうまでには何度も何度も資料を作り直しました。粘り強く役員会に上程し続けたことで、最後は会社が我々の熱意を買ってくれました。

賑わい用途として利用することは了承得たものの、まずは安全性を確保することが第一でしたので、耐震補強工事を先行して実施しました。当時の図面が無いことやこの建物が日本初の銀行(第一国立銀行)の別館として1923年(大正12年)に建築されたものであることがわかり、改めてこの建物が価値のあるものだと気づいたと同時に、建築基準法施行前の建物としての行政手続きや工事に着手してから判明したことも多々あり、正直結構大変な工事でした。

耐震工事完了後の建物に命を吹き込む仕事もやはり引き続き大変でしたね。賑わいの創出を得意とした運営パートナーと一緒に進めて行きたかったので。ただこの物件の魅力を運営パートナー候補が皆評価してくれたことは大きかったですね。直接様々なパートナー候補と対話を重ね、各社より魅力的なご提案をいただきましたが、最終的には、FERMENT様(K5運営パートナー)と歩むことに決めました。

まずはこの街に来て体感してもらいたい、との思いがあったので、目的地となり得る新しい要素を入れたいと考え「K5(ホテルと飲食等の複合施設)」の計画案で進めることになりました。唯一無二のモノを体感するためにそこを目的に訪れる人が増えれば、そこが起点となり街に動きが生まれます。また、何より運営パートナーが当社の思いと同じく街を盛り上げていこうという熱意を強く持ってくれたことで、同じ方向を向いて力をあわせることができたプロジェクトになったと思います。これからも思いに共感いただけるプレーヤーが増えていくといいですね。

「K5」の当初からの狙いでもありましたが、まさに「街に新しい文化を与えてくれる存在」となりました。パートナーである運営者のFERMENT様の名前に表れているとおり、ここから継続的に文化を発酵させ、発信していく存在でありつづけて欲しいと思います。我々も文化を発信していくような施策を推進して行きたいですね。

この街の魅力を向上させたい、という思いは町会を含めこの街に今いる方々の共通した思いです。人が集積する仕組みを作れば来街者が増加し、賑わいや活気に繋がっていきます。そして、この街の資産価値を向上させていくことが、不動産デベロッパーとして平和不動産が目指すべきところです。

「兜町らしさ」の1つの解釈として、地域の賑わいや回遊性を再創出していくため、これからこの街がどう変わっていくのか私自身も楽しみですし、アイデアも次々に提案しています。今後はもっと若手達のアイデアも期待していきたいです。

Chapter 4

アイデアが街のどこかでカタチになる

当社は大阪北浜や名古屋栄での証券取引所周辺の連鎖的な開発の経験はありますが、「日本橋兜町・茅場町再活性化プロジェクト」のような大規模かつ長期的な再開発プロジェクトは当社にとって初めての取組みです。

2014年に街づくりビジョンを策定してから現在まで、トライアンドエラーの繰り返しです。これからも与えられたミッションをこなすだけでなく、もっと新しい発想や取組み等、柔軟な対応が必要になってくるでしょうし、継続していかないといけません。

私たちも含め、若い世代の力、推進力を強化していきたいですね。現在では遊休不動産の活用、金融貢献機能の先行取組みなど、若手の発案で具体化できる可能性がありますし、私たちが動くことで、街を活性化させていかなければいけないと思っています。チャレンジングな仕事をしたい方、自ら進んで行動できる方には当社はオススメだと思います。

日本各地で様々な再開発プロジェクトが行われていますが、街づくり・街の再生のスタートに関われることはとても貴重です。その中でも当社には若いうちから活躍できるフィールドがあるので、自分のアイデアが街のどこかでカタチになる可能性も大きいと思います。今後は少しずつ後輩にバトンを渡し、若い力でより面白い取組みを行ってほしいと思っています。

ビルが竣工したらリーシングも必要ですし、第2期プロジェクト以降ではオフィスだけでなく、様々な用途の可能性が検討されています。当社が賃貸事業で培ってきたノウハウも当然必要ですし、私たちもこれから不動産の様々な知識や経験を積んでいかなければいけません。

金融機能コンセプトの一つでもある海外の資産運用会社とコミュニケーションを取っていくためには、外国語も必要になってくるでしょう。外国語は一例ですが、自分の興味のあることや感性を活かした活躍の場が広がっていることは間違いありません。